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高松地方裁判所 昭和41年(行ウ)3号 判決

香川県丸亀市富屋町六四番地

原告

香川金融株式会社

右代表者代表取締役

西本勝太郎

右訴訟代理人弁護士

阿河準一

被告

右代表者法務大臣

西郷吉之助

右指定代理人

叶和夫

櫛部房之助

水沢正幸

多羽本岩雄

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第三号租税債務不存在確認請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

1  原告の訴えのうち昭和三三年四月一日から昭和三四年三月三一日に至る事業年度の法人税額金一、六四二、〇六〇円および昭和三四年四月一日から昭和三五年三月三一日に至る事業年度の法人税額金一、二四四、四五〇円の租税債務の不存在確認請求の部分を却下する。

2  原告の訴えのうち昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日に至る事業年度の法人税額金四五九、五一〇円の租税債務の不存在確認請求のうち金二五四、二六〇円の確認請求部分を却下し、その余の部分を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の申立

一、原告

1  原告の被告に対する主文記載の各事業年度におけるそれぞれの租税債務は不存在であることを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二、被告

1  本案前の申立

主文第一項および第二項前段と同旨

2  本案の申立

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、当事者の主張

一、原告の請求原因

1  訴外丸亀税務署長は、昭和三六年五月二九日、原告の昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日に至る事業年度(以下昭和三二年事業年度という。)の所得につき、その法人税額を金四五九、五二〇円とする更正決定をし、さらに、昭和三六年七月一四日、原告の昭和三三年四月一日から昭和三四年三月三一日に至る事業年度(以下昭和三三年事業年度という)の所得につきその法人税額を金一、六四二、〇六〇円昭和三四年四月一日から昭和三五年三月三一日に至る事業年度(以下昭和三四年事業年度という。)の所得につき、その法人税額を金一、二四四、四五〇円とする各更正決定をした。

2  しかしながら、原告の前記各事業年度における所得は存在しなかつたものであり丸亀税務署長において前記各更正決定をしたのは、その計算の基礎に重大かつ明白な誤りがあり無効であるから原告の被告に対する前記各事業年度の法人税につき租税債務はいずれも存在しない。にもかかわらず被告はこれを争うので申立趣旨記載の判決を求める。

二、被告の本案前の答弁

1  原告は昭和三三年事業年度の所得についてなされた前記更正決定にかかる租税債務金一、六四二、〇六〇円はその全額を納入済みである。

2  昭和三四年事業年度の所得につき前記更正決定がなされたのち丸亀税務署長は、一部事実関係が明らかになつたので昭和三八年五月二七日付で所得金額の一部を取消すとともに法人税額を金一、一八二、〇〇〇円とする再更正決定をしたが原告は右租税債務を納入済みである。

3  原告は、昭和三二年事業年度の所得についてなされた前記更正決定にかかる租税債務金四五九、五二〇円については、その一部である金二五四、二六〇円を納入済みである。

4  以上のごとく納入済みの限度において原告の租税債務はすでに消滅しているから、原告の請求のうち、右納入済みの租税債務の不存在確認を求める部分は確認の利益を欠き不適法であり、却下さるべきである。

三、被告の本案の答弁

1  請求原因第一項の事実はすべて認める。ただし、昭和三四年事業年度の法人税については前記のごとく再更正決定がなされている。

2  同第二項の事実は争う。

第三証拠

一、原告

乙号各証の成立を認める、とのべた。

二、被告

乙第一号証の一、二、第二ないし第一三号証を提出した。

理由

一、本件各事業年度の法人税につき、原告主張の各更正決定がなされたことは当事者間に争いがない。

二、以下まず本案前の抗弁につき判断する。

1  昭和三三年事業年度の法人税

租税の賦課に関し更正決定がなされた場合、その更正決定に無効事由が存在することを前提として租税債務の不存在確認の訴えを提起することはもちろん適法である。しかしながら、その更正決定の相手方においてひとたび租税債務を履行したからは、むしろ、過誤納による不当利得返還請求の訴えを提起するか、もしくはその趣旨に訴えの変更をすることにより紛争のより終局的な解決をはかるべきである。これを本件についてみるに、弁論の全趣旨によれば原告は、昭和三三年事業年度の所得についてなされた更正決定にかかる租税債務金一、六四二、〇六〇円の全額をすでに納入済みであることが認められる。そうすると、すでに納入済みの右租税債務につき、その不存在の確認の訴えを提起することは、論争のより終局的解決をはかるべきとする前記の立場に反し、したがつて、確認の利益を欠くものというべきであるから却下を免れない。

2  昭和三四年事業年度の法人税

被告は、昭和三四年事業年度の法人税については、被告主張のごとき再更正決定がなされ、その再更正決定に基づく租税債務金一、一八二、〇〇〇円を原告において全額納入済みであるから、確認の利益を欠くと抗弁する。しかしながら、原告は、本訴においてさきの更正決定に基づく租税債務の不存在確認の請求をしているのであつて、のちの再更正決定に基づく租税債務の不存在確認の請求をしているものではない。租税債務はそれが拠つているところの個々の賦課処分により別個のものというべく、このことは、それらが更正決定とその再更正決定という関係にある場合でも変りはない。そうすると被告が再更正決定に基づく租税債務金の納入があつたことをもつて、更正決定に基づく租税債務の不存在確認の請求の(本案前の)抗弁となすことは、主張自体失当であるといわねばならない。しかし、弁論の全趣旨によれば被告主張のごとき再更正決定のあつたことが認められるのであつてそうすると、再更正決定によりさきになされた更正決定は当然消滅したものとみるべきであるから、消滅した更正決定に基づく租税債務の不存在の確認の請求は確認の利益を有しないというべきである。したがつて、右にのべた理由により本事業年度に関する請求は却下を免がれない。

3  昭和三二年事業年度の法人税

弁論の全趣旨によれば原告は、昭和三二年事業年度の所得につきなされた更正決定に基づく租税債務金四五九、五二〇円のうち金二五四、二六〇円を納入済みであることが認められる。そうすると1においてのべた理由により原告の訴えのうち本事業年度の法人税額金四五九、五二〇円の租税債務の不存在確認請求は右納入済みの金二五四、二六〇円の確認請求部分については、却下を免がれない。

三、次に、本案について、判断する。

原告は、昭和三二年事業年度の所得はなかつたにもかかわらず、丸亀税務署長が前記更正決定をしたことは、その計算の基礎に重大かつ明白な瑕疵があるから無効である旨主張するが、瑕疵が明白であるとは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが処分成立の当初から外形上、客観的に明白であることをさすものと解すべきところ、法人税額算定の基礎である所得の計算の当否のごときは、所得の実体について、その事実関係を精査してはじめて判明する性質のものであり、したがつてたとえ、被告の認定に誤りがあつたと仮定しても、それをもつて直ちに明白な瑕疵があるとして、更正決定を当然無効とすることはできない。

そうすると、昭和三二年事業年度における所得についてなされた更正決定の無効を前提とする原告の租税債務の不存在確認の訴えのうち前記一部納入部分を除くその余の部分である金二〇五、二六〇円の租税債務不存在確認の請求はその理由がないものとして棄却さるべきである。

四、以上の次第であるから民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上明雄 裁判官 板坂彰 裁判官 政清光博)

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